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評論・エッセイ

三つのパラグラフのなかの彼女

 ひさしぶりに彼女に会った。夏のまっさかりの日に会って以来だから、ひさしぶりなのだ。いまは、すでに秋が深い。落葉樹の葉は光合成を終わりつつあり、日没の太陽の光を、高くたなびいている絹雲が静かに照りかえしている。
 真夏にはほんとうに潑剌とした夏の女であった彼女は、秋深くに会うともののみごとに秋の女になっていた。服や髪のつくりは言うにおよばず、声のトーンから表情、身のこなしにいたるまで、秋そのものであり、美しかった。淡い微笑が秋風によく似合っていた。
 会った明くる日に、もう一度、ぼくは彼女に会った。彼女が卒…

底本:片岡義男エッセイ・コレクション『「彼女」はグッド・デザイン』太田出版 1996年

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