VOYAGER

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書評

ロミオはジュリエットに誠実に。そして誰もが、それぞれの夏を越えていく

 彼女との待ち合わせの町に、僕は午前中に到着した。ホテルに、彼女から電話がかかってきた。待ち合わせ場所までの道順を、彼女は電話で僕に教えてくれた。その道順を、僕は、ファイロファクスの黄色いページに書きとめておいた。
 町の西の端から海にむけて、細く長く、しっぽのように、半島が湾曲しつつのびていた。その半島の突端にある、長く続く海岸を、彼女は待ち合わせ場所として指定していた。
 半島の途中まで、電車があった。終点で駅の外へ出てくると、梅雨に入る寸前の、夏のような晴天の日には、海の香りが満ちていた。


底本:片岡義男エッセイ・コレクション『本を読む人』太田出版 1995年

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