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書評

せっかく季節が夏なのだから、タイトルに夏のある小説を読んでみよう、と僕は思った

 ある年の夏、僕はふと妙なことを思いついた。せっかく季節が夏なのだから、タイトルに夏という言葉が使ってある小説を読んでみよう、と僕は思った。ペーパーバックの山のなかをさがしてみたら、タイトルに夏のつく小説は何冊かあった。そのうちの数冊を、その夏のあいだに僕は読んだ。ハーマン・ローチャーの『一九四二年の夏』は、そのなかのひとつだ。
 一九七〇年の夏の終わりに、ひとりの中年男性が、ニュー・イングランド沖にあるパケットという小さな島へひとりでやって来る。彼はマーセイディスのオープンに乗っている。靴はグッチィだ。人生という処世術…

底本:片岡義男エッセイ・コレクション『本を読む人』太田出版 1995年

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