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評論・エッセイ

虚ろな内側をよく見ておきなさい

 ジュリー・ロンドンが歌う「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」の歌い出しは、三とおりのマイナー・コードのなかを下降して上昇しそこからふたたび下降するメロディによる、四分の三拍子の四小節だ。そしてそのなかで、Fly me to the moon and let me play among the stars.と、きわめてすっきりと、いっさいの無駄なく、主題が提示される。
 この見事な歌い出しの、最初の Fly me の二語だけで早くも、美しく澄みきった夜空の空間が、あらゆる方向に奥行き深く、彼女の声のまわりにだけではなく歌声…

底本:『ピーナツ・バターで始める朝』東京書籍 2009年
初出:『At Once』2008年9月号

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