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評論・エッセイ

豆腐屋はいまもまだある

 子供の頃から三十年近くにわたって住んだ世田谷のその一角には、いつも利用する私鉄の駅を中心にして商店街があった。一日のどの時間でも人がたくさん歩いている、賑わいのあるいい商店街だった。一九七十年代のなかばあたりまでは、この商店街は昔と変わらない賑わいを見せていた。いまはもうないと言っていい。商店街は消えてしまった。道そのものが、事実上はもうない。駅を出てすぐのところでゆるやかなS字を描きつつ、踏切に向けて下っていく坂道となっていた。
 この道からほんの少しだけ脇へ入ったところに、かろうじて、とは言いたくないのだが、豆腐屋…

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