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「国際社会の平和と繁栄」とは

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ー2004年1月26日*ー 「まえがき」参照

 フセイン大統領は拘束された。フセイン政権は倒れた、と言っていい。この政権が復活することは、もはや二度とない。しかしおなじような性質の政権が、やがてイラクに生まれる可能性は、なくはない。だが少なくともいまのところ、イラクは白紙の状態に戻っている。アメリカとイギリスがイラクを占領しているが、事実上はアメリカによる占領だ。そしてこの占領は、五年、十年と長期化するのではないか。絵に描いたような、しかもすこぶるつきのやっかいな三つ巴が、前方に大きく立ち上がっているからだ。

 三つ巴のうちのひとつは、イラク社会の復興だ。恐怖と圧政の独裁制のもとに、イラクの近代化は遅れに遅れている。そのすべてを含めたかたちで、今回の戦争によるあらゆる種類の破壊から、イラクを復興させなくてはいけない。市民生活の回復と進展、そして国家としての健全な再生を、出来るだけ速やかに軌道に乗せる必要がある。そしてこのことと表裏一体の関係を作っているのが、イラク全土における治安の回復と維持だ。治安のほぼ完全な回復がなされ、それが将来に向けてどこまでも維持されていく必要がある。イラクの復興はこれなくしてはあり得ないし、秩序の回復のないままの復興もまた、不可能な話だ。

 以上のふたつと緊密にからんで存在しているのが、テロその他の破壊的な攻撃活動だ。占領軍であるアメリカ軍がこうした活動の標的だったが、その段階はとっくにとおり過ぎている。アメリカに協力するすべての人たちへと標的は拡大された。いまでは標的はさらに拡大され、イラクをどうするか、ということを考えてなんらかの活動をするすべての人や組織が、攻撃の標的となった。イラクを無秩序なままにしておくことを目的とした破壊や攻撃の活動に対して、アメリカ軍は徹底した討伐作戦を展開しようとしている。テロとの戦い、というやつだ。

 テロだけはなんとしても抑え込まなくてはいけないのだから、討伐作戦は基本的には絶滅作戦にほかならない。以上のような途方もない三つ巴が、いまそしてこれからのイラクだ。イラクは解決不可能な事態となるかもしれない。舞台はイラクだけに限定されない。アラブぜんたいに広がるだろう。少なくともアラブぜんたいに、事態は直接に関係している。武装した抵抗勢力の討伐は、アメリカにとってはいちばんわかりやすい。だからこれを中心に、アメリカは徹底して実行していくだろう。そのアメリカにとって、アラブという独特な現場における指導者的な位置にあるのが、ほかならぬイスラエルだ。アメリカにとってイラクをどうするかとは、イスラエルをどうするかだ。イスラエルをどうするかとは、では、なになのか。

 イスラエルがパレスティナに対して容赦なくおこなう、なんとも言いがたく強圧的で戦闘的な、有無を言わせない壊滅作戦は、イラクをどうにかしなければならないアメリカにとって、イラクにもただちに応用のききそうに思える魅力的なものなのではないか。なんらかの大義名分のもとに、その魅力にアメリカが多少とも手をつけることがあれば、最大級のジハードがアラブぜんたいに、いっきに拡大される。中東に平和は来ない。イラクの復興やその先の繁栄など夢物語だ。アメリカ兵による警備や討伐の現場では、そのおこないかたにおいて、イスラエル兵かアメリカ兵か見分けがつかないほどにおなじになっている、という現実がすでにある。

底本:『影の外に出る──日本、アメリカ、戦後の分岐点』NHKブックス 2004年

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