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彼女から届く絵葉書

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 彼女と知り合って三か月ほどして、彼女からの最初の絵葉書が私のところに届いた。国内の旅先からであることが消印からわかった。フラミンゴの絵葉書だった。フラミンゴのひな鳥が、親鳥から口うつしで餌をもらっているところが、縦位置で巧みにとらえてあった。見ていて飽きない写真だった。ひな鳥は全身がまっ白だが、親のフラミンゴはピンク色をしていた。くちばしは、体のピンクに調和して、まっ黒だった。

 あいさつ文面は、旅先からの、ごく短い軽い挨拶のようなものだった。ふと彼女の声が聞こえてくるような、楽しい絵葉書だった。毎日大量に届く郵便物のなかで、その絵葉書は魅力を発揮していた。

 後日、彼女と二度めの夕食をともにしたとき、彼女はフラミンゴについての基本的なことを、私に教えてくれた。

「あの絵葉書のフラミンゴは、南米のアンデス山脈側の沿岸一帯にいるフラミンゴです。体がピンクなのは、いつも食べているもののなかに、あのような色となって出てくるミネラルが含まれているからなの。動物園で飼われているフラミンゴは、ピンクの色が体に出るように、餌にミネラルを調合してもらっているのよ」

 二枚めの絵葉書も鳥だった。中国の北東部、そして日本にもいる、マンダリン・ダックだと、彼女は説明してくれた。

「嘘みたいにきれいでしょう。誰かたいへんに才能のある人が作った、架空の鳥の造形のようね」

 そして三枚めの絵葉書も鳥だった。仕事で旅に出ることの多い彼女は、旅先から友人たちに絵葉書を出すのが趣味なのだと、三度めの夕食の席で語ってくれた。

「鳥が三枚続いたよ。鳥が好きなのかい」
「鳥の絵葉書が三十枚、一冊の本として綴じてあるの。いまはそれを持って歩いているからです。絵葉書の本が外国でたくさん出ていて、新しいのを見ると次々に買ってしまうの」

 三枚めの絵葉書の鳥は、北極そしてアメリカやユーラシアの北部にいる、雪フクロウだった。一瞬のひらめきを得た子供が、雪を材料に作った架空の鳥のようだった。

「単純でいて、ふっくらと豊かな、素敵なかたちでしょう。手前にいた、羽にすこしだけ色のあるほうが、雌だわ。低いところにとまっているのが好きなのですって。雪と見分けがつかないわね」

 鳥の絵葉書の次は樹だった。そのあと、動物の絵葉書が何枚か届いた。動物の絵葉書の最後は、草原を駆ける一頭の美しい馬の写真の絵葉書だった。

「絵葉書を友人たちに書き送るのは、ずっと以前からの私の趣味です」

 と彼女は言っていた。仕事で小旅行に出るたびに、持って来た絵葉書の本から何枚か選び、送るにふさわしい相手をよく選び、短い文面を添えて投函する。

「楽しいです」
「もらうほうも楽しい」
「評判はいいみたいですよ」
「ファイルのなかに、すべて保存してあるよ」

 保存、という私の言葉に、彼女は笑っていた。

「ほかにも楽しい趣味がありそうだね」
「防波堤が趣味です」

 日本をとりまく海岸線のぜんたいが好きなのだが、なかでも防波堤は子供の頃から続いている趣味なのだと、彼女は言った。

「港の防波堤もいいのですけれど、普段はあまり人が来ないような場所に、なにげなくある防波堤がいちばん好きです。いろんな場所にさまざまな防波堤があって、歩きまわっては写真を撮ってスクラップ・ブックに貼り、地図や説明文を自分で書きこんだりして楽しんでいます。スクラップ・ブックはもう何冊もあるわ」

 時間をかけてさらに彼女と親しくなってから、彼女のもうひとつの趣味を私は知ることが出来た。

「馬が走ることのぜんたいが、好きなのです。乗馬は、子供の頃から手ほどきを受けました。北海道の牧場には、自分の馬がいます。時間を作っては、乗りにいきます。こんど、いっしょにいきませんか。馬に乗ってラーメンを食べにいったりするのよ」

 馬が走ることぜんたい、と彼女は言った。そのぜんたいのなかには、競馬も含まれていることを、それからほどなく彼女は私に教えてくれた。そして東京の競馬場へ、私を誘ってくれた。

 競馬というものを、私はそのときはじめて存分に見た。そして強い感銘を受けた。何頭もの馬がいっせいに走り出す瞬間、そしてレースを展開させていく時間のなかには、人の心をごく基本的なところでとらえて興奮させる、きわめて強い魅力が横たわっていることを私は知った。

 馬の見かたやレースの仕組み、さらには何頭もの馬についての、それまでの詳しい経歴などを、彼女は私に語ってくれた。競馬場での彼女は、私がはじめて知るもうひとつの魅力を、私に見せた。

「走るのを見るだけかい」

 野暮かなと思いつつ、含みを持たせて、私はそうきいてみた。レースが終わったあとの西陽を受けて、彼女は涼しく美しく笑顔だった。

「馬券を買うのか買わないのか、という意味の質問だと思うわ。買います、と私は答えます」
「収支について、質問してもいいだろうか」
「どうぞ」
「赤字かい」
「いいえ」

 あっさりと、彼女はそう言いきった。

「ほぼかならず、私は二倍にします」
「ふうむ」

 としか私には言いようがなかった。

「まとまった額を二倍にすると、まとまった二倍の額が、自分の手のなかにあるのです」
「悪くないね」
「素晴らしいです」

 ほぼかならず、というのは彼女のものの言いかただが、資金を二倍にして手もとに戻すことは難しいことではないのだと、彼女はその仕組みを私に説明してくれた。要は、いったいどのくらいからを、資金としてまとまった額と呼ぶかなのだ。

「私はよく旅行をするでしょう。国内は仕事の場合が多いのですけれど、外国に出るときは、二倍になって戻って来たものに、いつもお世話になってます」

 その外国からも、彼女は絵葉書を送ってくれる。ついさっきも、午後の郵便物のなかに、彼女からの絵葉書があった。その絵葉書は、いま私がこれを書いているワード・プロセサーのプリンターに、立てかけてある。

 東京へ帰ったら競馬場へまたつきあってください、そして防波堤にもご案内します、と彼女は書いてくれている。

底本:『アール・グレイから始まる日』角川文庫 1991年

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2016年11月27日 05:30
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