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評論・エッセイ

吉永小百合の映画 『黒い傷あとのブルース』

夜の波止場で男はなぜトレンチ・コートの襟を立てるのか。襟を立てるとはそこから歩み去ることだ。初めて見た『黒い傷あとのブルース』で、僕はこんなことを学んだ。この傷はもちろん心にある。そこから歩み去った男の心だけではなく、歩み去られたほうの人の心にも、おなじような傷があるはずだ。彼がトレンチ・コートの襟を立てて歩み去ったあとに残されるのは、ひとりの美しい女性だ。

底本:『吉永小百合の映画』東京書籍 二〇〇四年

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