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評論・エッセイ

夜霧に今夜も礼を言う

「夜霧よ今夜も有難う」という歌がある。浜口庫之助が作曲して詞をつけた歌だ。石原裕次郎が歌い、いわゆる大ヒットになった。いつ頃のことだろう。僕が大学生だった頃、すでにこの歌は広く知られていた。僕が大学生だったのは、ずいぶん以前のことだ。この歌は懐かしのメロディなのだろうか。一定の時間が経過すると、あらゆる歌が懐かしのメロディとなっていく。
 この歌をよく知っている人たちは、いまもたくさんいると僕は思う。僕も知ってはいるが、それはタイトルそして最後の部分、つまりタイトルとおなじ文句が、C–F–C–G7–Cで歌われる五小節だけだ…

初出:『月刊オーパス』一九九四年六月号
底本:『音楽を聴く』(第三部「戦後の日本人はいろんなものを捨てた 歌謡曲とともに、純情も捨てた」)東京書籍 一九九八年

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