VOYAGER

片岡義男.com 全著作電子化計画

MENU

評論・エッセイ

白い町での恋愛

 春まだ浅い日、麻布で知人と夕食をした僕は、ひとりでタクシーに乗って新宿駅の南口に向かった。タクシーのなかではラジオがかかっていた。聞くともなく聞きながら走っていくうちに、青山通りにさしかかった。青山一丁目で青山通りを越えてすぐに、それまで聞いていた番組は終わり、次の番組が始まった。
 歌のリクエストの番組だった。心に残っている思い出の歌をリスナーから葉書で募り、葉書に書かれた短い文章をDJが読み、感想を述べ、リクエストされている歌のレコードをかけるという、単純な構成だった。DJの中年男性は、おだやかな口調で丁寧に、静かに…

底本:『音楽を聴く』(第三部「戦後の日本人はいろんなものを捨てた 歌謡曲とともに、純情も捨てた」)東京書籍 一九九八年

このエントリーをはてなブックマークに追加