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評論・エッセイ

言葉を越える

 筆舌につくしがたい、というやや古風な言いかたがある。筆とは書き言葉、そして舌は喋り言葉だ。自分が遭遇したなにかの出来事からたとえば苦難を受けたとして、それがどちらの言葉によってもとうてい言いあらわすことが出来ないほどに大きいことを、ごく簡単に言っておくための紋切り型だ。使われる状況、そして意味するところが少しだけ方向が違ってくるのだが、あまりのことに言葉を失うとか、言葉もなく立ちつくした、というような言いかたもある。
 もっと日常的な言いかたとしては、とうてい言葉にならないとか、言葉ではとても言えない、というような言いか…

底本:『坊やはこうして作家になる』水魚書房 二〇〇〇年

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