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評論・エッセイ

英語で生きる人

 使う言葉が英語のとき、名を呼ばれる場合を別にすると、いつでも誰からでも、僕は「ユー」と呼ばれる。「ユー」とだけ呼ばれる、と書くともっと正確だ。僕を「ユー」とだけ呼ぶ相手を、僕もおなじように「ユー」と呼ぶ。ふたりはおたがいに「ユー」でしかなく、したがって「ユー」でありきることにおいて、僕と相手は、少なくとも言葉のもっとも基本的な機能の部分においては、これ以上ではあり得ないほどに対等だ。
 きわめて特殊な状況のとき以外には、いついかなる場合にも、僕は相手から「ユー」とだけ呼ばれる。相手と話をしているあいだ、「ユー」という弾丸…

底本:『日本語で生きるとは』筑摩書房 一九九九年

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