ポール・オースターを読む。自分がすこしずつ消えていく。物語が終わるときの、どうにもならないせつなさ
ポール・オースターの『ニューヨーク三部作』は、読みはじめると途中で中断するのがたいへんに惜しい気持ちになる小説だ。ふっふっとたぎる純粋なエモーションを、透明感のあるくっきりと正確な、端正で深みのあるリズムをともなった理性の力へと、オースターの文章は転換し、その力で読む人を引っ張り続ける。
底本:片岡義男エッセイ・コレクション『本を読む人』太田出版 一九九五年
『水平線のファイル・ボックス 読書編』光文社 一九九一年所収
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