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片岡義男.com 全著作電子化計画

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小説

金曜日の幸せなグラッパ

物語は、その小説はどんなものになるのか

 作家の北荻夏彦は、経堂駅を降りて待ち合わせのタリーズへ向かう途中、駅を抜けてバスターミナルに停まっているバスに乗った女性の後ろ姿を追っていました。タリーズで会った元部下の友人、根岸に北荻は、若い女性が駅の改札を抜けてバスターミナルからバスに乗るという、ごく平凡な風景から始まる短編小説を書こうと思うと告げます。物語は、その小説はどんなものになるのか、根岸の友人の女性、吉野美香子も巻き込んで、実際にバスに乗ってもらったり降りてもらったり、その経緯を楽しんだ北荻は、その物語の最後を、それしかないという形で自ら閉じるのです。

底本:『群像』二〇一六年六月
(「短篇小説をめぐる3つの短篇」として、『ひょっとして怖い話?』『スリープ・タイト』とともに収載)

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