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エッセイ

残暑好日、喫茶店のはしご

 二十代の頃の僕は独身の極楽トンボで、フリーランスのライターとしていろんな雑誌に冗談のような文章を書いては、呑気な日々を送っていた。そのような日々にとって親和性のもっとも高い場所は神保町だったから、毎日のようにそこへ出ていき、そこを根拠地のようにして、喫茶店で編集者と打ち合わせをし、喫茶店で原稿を書き、出来た原稿を夕方の喫茶店で渡していた。当時は喫茶店の時代だったから、はしごする喫茶店に不足はなかった。雨の日には軒伝いに歩いて濡れないはしごのルートが、いくつもあったほどだ。
 それからまさに幾歳月だが、かつて僕が常連の客…

底本:『洋食屋から歩いて5分』東京書籍 2012年
初出:『日本経済新聞』2009年9月13日

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