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エッセイ

いつもなにか書いていた人

 地下鉄から階段を上がって交差点に出ると、七月なかば、暑い快晴の日の午後だった。僕は交差点を渡っていった。向こう側から来る人たちと、交差点のまんなかですれ違い始めた頃、「カタオカさん」と、斜め背後から女性の声がした。おそらく僕だろうと思い、歩き続けながら振り返った。
「まあ、ほんとに久しぶり。こうして偶然にお会いするのは、いまが初めてね」
 僕とおなじような年齢の女性が、両手をさしのべて僕に歩み寄った。彼女がどこの誰だか見当もつかないまま、僕は彼女に手を取られてしまった。彼女が渡っていこうとした方向へ、僕は…

底本:『洋食屋から歩いて5分』東京書籍 2012年
初出:雑誌『AZUR』東京ニュース通信社 2010年2月号

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