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評論・エッセイ

梅雨の日に傘をさして学校へいったら

 東京から山口県の岩国へ、そしてそこから広島県の呉へ。戦後に小学生となった僕は、呉に移ったとき五年生だったと思う。今日からあの小学校へ通うのだと言われた小学校へ、初日はまともにいってクラスの全員に、転校生として紹介された。二度目にいったときは六月のなかばで梅雨が始まっていた。雨の日にこうもり傘をさして学校へいったのは、このときが最初だった。
 全校生徒諸君がさして来た傘が、校舎の端の大きな板壁に沿って、ぎっしりと斜めに立てかけてある様子は壮観だった。フロアはコンクリートのたたきで、傘から落ちた雨雫で存分に濡れていた。一年…

底本:『群像』2017年1月号

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