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評論・エッセイ

『東京の宿』一九三五年(昭和十年)

 昭和十年に公開された日本の娯楽映画を、たとえば向こう三か月のうちに十本ほど映画館で見る、というようなことは、いまの日本ではまず不可能だ。数の揃っている店へいき、ヴィデオとして市販されている昭和十年製の娯楽映画を、何本買って帰ることが出来るだろうか。五本に満たないのではないか。昭和十年を僕は『東京の宿』という作品に代表してもらうことにした。選ぶ範囲は極端に狭いから、そうせざるを得なかったのだが、『東京の宿』に不足はなにもない。
 この映画は小津安二郎が作ったサイレントの作品だ。コメディである、という評価がもっとも正しいと僕…

初出:『映画を書く──日本映画の謎を解く』ハローケイエンターテインメント 一九九六年
底本:『映画を書く──日本映画の原風景』文春文庫 二〇〇一年

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