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評論・エッセイ

青春映画スターとの再会

 秋のある日、彼は仕事の一部として、一本の映画を配給会社の試写室で見た。上映がはじまるまえ、配られた資料を見るともなく見ていた彼は、その映画の配役のなかにひとりの女優の名をみつけた。
 カタカナで書いてある彼女の名を見た瞬間、彼の心臓は一拍だけ見事にスキップした。彼女の名は、彼にとって、ひとつの永遠だった。まず絶対にかなえられることのない、したがってきわめて純度の高い、初恋の相手の名なのだから。
『往年の青春映画のスターであった彼女も、いまや中年まっただなか。激烈をきわめる国際ビジネスの世界で、秘書として有…

底本:『アール・グレイから始まる日』角川文庫 1991年

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