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エッセイ

なぜ、そんな写真を撮るのか

 残暑がついに終わろうとしている、よく晴れた平日の午後、下北沢の喫茶店で僕が落ち合ったのは、ひとりの女性だった。その日の僕は写真を撮ることにきめていた。写真撮影の同行者には、男性よりも女性のほうが、さまざまな点において好ましいことを、僕は何年も前に発見していた。僕たちは午後のコーヒーを飲んだ。
 店を出て立ちどまった彼女は、
「好きそうな古い民家がすぐ近くにあります」
 と、白い指で方向を示した。好きそうなとは、僕が写真の被写体にするのを好みそうな、という意味だ。喫茶店から三分とかからない、ふ…

底本:『新潮45』2013年12月号

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