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エッセイ

交差点の青信号を待ちながら

 交差点の横断歩道の信号は赤だった。青に変わるのを待つために僕は立ちどまった。歩くために脚を動かしていたことによって、僕の体内にはエネルギーが撹拌されていた。急に立ちどまったからそのエネルギーは行き場を失い、頭へと上がった。だから僕の頭は多少とも余計に作動し、「辞書はコンサイス」というフレーズが頭のなかに浮かび、頭の中でそれは大きく広がった。
 交差点へ到達するほんの数分前、「辞書はコンサイス」というフレーズを僕は見た。三省堂の建物の上、塔屋のようになった部分に取りつけてある大きな広告のひとつが、「辞書はコンサイス」と言…

底本:『音楽を聴く2──映画。グレン・ミラー。そして神保町の頃』(第三部 この都電はジン・ボ・チョへ行きますか) 東京書籍 2001年

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