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片岡義男.com 全著作電子化計画

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評論・エッセイ

人にあらざる人

 秋のある日、僕はヘッドフォーン・ステレオをひとつ買った。いま買うことの出来る全商品が展示してある店の棚のまえで、ひとつひとつ見くらべながら、添えてある丁寧な能書きを読んでいくと、ひとつを選ぶまでに一時間ほどかかった。
 ヘッドフォーン・ステレオとしては最高級のものである、という能書きのついていた製品を私は買った。最高級であるならば、ヘッドフォーン・ステレオをとおして人々が聴きたいと思っている音楽がどのようなものか、もっとも端的にわかるはずだと僕は思ったからだ。
 CDとその再生に関する特性を考えぬいたうえ…

底本:『アール・グレイから始まる日』角川文庫 1991年

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