いまも思い出す、あのひと言
僕がまだ二十歳か二十一歳だった年の、もうそれほど寒くはない季節、三月の誕生日が過ぎたばかりの頃のよく晴れた日の午後。この程度でよければ、いまでもまだ僕は記憶している。僕よりずっと年上の編集者とふたりで、僕は歩道を歩いていた。その場所も、現場へいけば特定出来る、と思う。
その頃の僕は、原稿料のともなう原稿を、わずかではあったがすでに書いていた。僕の原稿を受け取って活字にしてくれるだけではなく、もっと書くといいと言ってくれていたのが、そのときいっしょに歩いていた人だった。
歩きながらの気楽な雑談の延長とし…
底本:『坊やはこうして作家になる』水魚書房 2000年
前の作品へ
次の作品へ