イースト・サイドの、暑い日の午後の消火栓
それほど緊急の用事でもない、という感じでパトロール・カーがくる。歩道に寄ってそのパトロール・カーはとまり、サマータイム・ユニフォームを着た中年の警官がふたり、外に出てくる。ひとりは居心地悪そうにあたりを見まわし、レンチを持ったもうひとりは、水の太い柱を中空にむかって斜めに噴出しつづけるファイア・ハイドラント(消火栓)にむかって、大股に歩んでいく。水の柱の反対側にまわったその警官は、レンチで消火栓のバルブを閉じていく。空にむかって白くきらめきながら立ちのぼっていた水の勢いが、がくんと落ちる。警官は、さらにレンチでバルブを閉じていく。水…
底本:片岡義男エッセイ・コレクション『なぜ写真集が好きか』太田出版 1995年
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