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片岡義男.com 全著作電子化計画

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評論・エッセイ

内省のアクア・マリーン

 目を覚ます直前、ほんの一瞬、水のなかに浮かんでいる感覚がある。その感覚のなかを自分は上昇していく。水のなかからその外へと、自分は出ていきそうになる。だから水のなかへ自分を戻そうとして体に力を込めると、そのとき目が覚める。眠っているあいだは誰もが水のなかにいる、という説をどこかで読んだ、あるいは聞いた。
 ベッドに起き上がるとき、自分の体の重さを自覚する。そうか、これが自分という存在なのだ、とそのとき思う。ベッドを離れてドアまで歩く。立ちどまってふと振り返る。たったいままで自分が眠っていたベッドが、いまは空っぽだ。自分の…

底本:『自分と自分以外──戦後60年と今』NHKブックス 2004年

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