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エッセイ

書き順と習字

 僕が小学校に入る日が近づいてきていた頃について、いまの僕は思い出そうとしている。かなり昔のことだ。充分に遠い。忘れてしまったことが多い。忘れてはいないまでも、記憶は淡い。淡さは不正確さでもあるだろう。
 というようなことだけについて、落ち着いた状況のなかで冷静に客観的に考えをめぐらせていると、やがてわかってくることがひとつある。小学校の生徒としての自分、あるいはその日々を、いまの僕が美化することはあり得ない、ということがわかってくる。
 美化しなければならない理由がなにひとつない。美化に値するものでもない…

底本:『坊やはこうして作家になる』水魚書房 2000年

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