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小説

階段を駆け上がっていった

すれ違った彼女は自分の妻の百合子かも知れないと思い当たったところから物語が動きます。視覚と記憶についてのお話です。

 写真家の高村夏彦は、広告関連の打ち合わせを終えて、駅から続く地上三階の高さにある遊歩道を歩いて、階段に差し掛かります。階段を降りる高村とすれ違うようにひとりの女性が階段を駆け上がってきます。高村はその女性の姿が良いと感じて、常に肩から下げているレンジファインダーのライカで咄嗟に、階段を駆け上がっていく女性の後ろ姿を写真に収めます。その後、高村は自分が何かを忘れているような感覚に捉われ、すれ違った彼女は自分の妻の百合子かも知れないと思い当たったところから物語が動きます。視覚と記憶についてのお話です。

底本:『階段を駆け上がる 片岡義男短編小説集』左右社 二〇一〇年
「本の雑誌」二〇〇九年十月号所収

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