僕はTVを観ない。しかし僕の住んでいた家の居間では、一日じゅうTVがオンになっていた。居間は食事をする場所とつながっていた。だから夕食のときには、少なくとも二時間は、TVを受け止めなくてはいけなかった。そのおかげでと言うべきか、ある時代の日本に関して、それはTVで知っている、と言えるまでになった。食事をしている僕のすぐ脇に、巨大なTVがあった。
あるとき、そのTVに向かって、この歌手は誰だ、と叫んで指さした。ちあきなおみ、だった。なにかのTVCMに『星影の小径』という歌が使われ、その歌を歌っていたのが、ちあきなおみ、…
『図書』二〇二二年八月号