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評論・エッセイ

情景の手帖 雨と風の設計図 1

 昨年の夏、場所は京都。地下鉄の駅から地上へ出てきた彼女は、宿に向けて歩いた。ゆっくり歩いても10分とかからないところに、その宿はあった。雨が降り始めた。すぐにやむだろう、と彼女は思った。少し離れた場所の上空に雲はなく、快晴の日の午後の空だけがあった。
 降り始めた次の瞬間から、雨はどしゃ降りとなった。空は明るいままだった。だから彼女が歩いていく路地も、晴天のままに明るく、その空間に雨だけが、空から地上へ、密度高く落下した。雨、という実感がないままに、彼女は雨のなかを歩いた。そしてたちまちずぶ濡れになった。


『キャシー・マム』二〇〇三年秋号

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