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評論・エッセイ

作家の口福 空っぽだったコーヒー缶

 今朝はチーズ・オムレツを作って食べた。それにソーセージとデコポンをひとつ。鶏卵を手にするたびに、僕はそのつど、深い感銘をあらたにする。
 なんという完璧なかたちであることか。見事なものだ。それに、殻のなかにあるものも。ひとつの生命が生まれるにあたって必要なものが、すべてこの1個の卵のなかにある。
 東京の坊やとして生まれ育った僕は、戦争中のアメリカ軍による東京の空爆を逃れ、山口県の岩国で祖父の家に住むことになった。祖父はなんでも出来る人で、実際的なことを広い範囲で、きわめて根気よく幼い僕に教えてくれた。い…

『朝日新聞』二〇一三年三月三〇日

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