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評論・エッセイ

先見日記 トラウマの人たちのドラマ

 精神分析医のオフィスへ分析を受けに来た人は、寝椅子に体を横たえる。体を楽にすれば心も開かれる、ということか。そのかたわらで椅子にすわった分析医が、メモを片手にいろんな質問をする。誘導尋問のような質問だ。そしてそれにひとつずつ答えていくという共同作業をとおして、分析を受けに来た人は、自分の意識下に眠っていたとされるトラウマを捏造して、それを自分すら知らなかった本当の自分として、発見する。
 精神分析によるこうしたトラウマの発見とその治療は、僕が子供だった1950年代の初めには、アメリカではすでにジョークの種になっていた。精…

『先見日記』二〇〇四年十一月三十日