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評論・エッセイ

先見日記 ロスト・イン・トランスレーション

 微妙なニュアンス、いわく言いがたい雰囲気や感触、文化的なあるいは歴史的な奥行きの共通認識、自明の理、冗談、語呂合わせ、裏の意味。こういったものは、たとえば外国の文化作品を日本語に翻訳するにあたって、なかなか翻訳しきれない難しいものである、ということになっている。翻訳しきれないとは、翻訳することをとおして失われる、ということにほかならない。翻訳によって失われたもの、それがロスト・イン・トランスレーションだ。
 翻訳によって最初から最後まで、決定的に失われ続けるのは、原文が持つ構文ではないか。ひとつひとつのセンテンスの組み…

『先見日記』二〇〇四年三月二日