先見日記 長くて複雑な海岸線
新聞に掲載された写真を切り抜いておいた。9月4日の午後、日本海のナホトカ沖にあらわれた不審船の写真だ。不審船という言いかたはもうやめてはどうか。工作船にきまっているのだから。
高速で航行しているように見えるその船に、人の姿はない。漁具が積んであるがこれは偽装だろうという。写真を観察する僕の頭のなかに、さまざまな思いが湧き起こる。やがてそれらは、僕の記憶にいまもあるひとつの映像へと、到達する。
いまから10年ほども前のことだったか、地中海の東の端あたりに接する国で、大量の難民が発生した。難民たちの一部は…
『先見日記』二〇〇二年十月二十九日
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