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片岡義男.com 全著作電子化計画

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評論・エッセイ

そしてその他の物語 第5回

 おそらく居間として使っているはずの広いスペースには、その広さと気持ち良く調和した、長方形の大きなガラス窓があった。窓のすぐ前に立って、彼は外を見ていた。彼の視界の幅いっぱいに、窓の外は林だった。森と呼ぶには、重さや深さがやや不足していた。だから林だ。林以外のものは目にとまらず、その林はいま台風の影響による突風と豪雨を受けとめていた。
 さまざまな方向から、林は容赦ない強さの風を、常に受けとめ続けた。受けとめて林の内部へと取り込み、取り込んだ内部のどこかで、風はあっけなく中和されているように見えた。豪雨についてもおなじだ…

『Free & Easy』二〇一〇年十一月号

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