その写真機を、ください 第十九回 ミノルタ・SR–1
二十五歳のとき、それまでに何枚もたまった自分の写真を、僕はすべて捨ててしまった。邪魔くさい、鬱陶しい、といった理由だ。アルバムに貼ってあったものは一枚残らず剝がし、未整理のものとひとまとめにし、ついでにネガも加え、みんな捨てた。ゼロ歳のときから始まって二十五歳にいたるまでの僕の写真は、少なくとも僕の身近からは、すべて消えた。せいせいした気持ちになったのを、いまも覚えている。これで僕に過去はない、などと僕は冗談を言っていた。
このページに使っている僕の写真は、だから二十五歳以後のものばかりだ。それ以前のものが残っていれ…
『ラピタ』一九九八年九月号
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