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片岡義男.com 全著作電子化計画

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評論・エッセイ

その写真機を、ください 第十回 ニコンFG–20

 真夏の日の午後、小田急線の電車のなかで偶然に、二十年ぶりに会った年上の女性から、電話がかかって来た。いまの僕から年上と言われたなら、その言葉がいかに正確でも、言われたほうがまず迷惑かもしれない。
 いまここで僕が使う年上という言葉は、単に年齢差を示すものではなく、それよりもはるかに、内容を問題としている言葉だ。その昔、高校生だった僕から見て、年上の彼女こそまさに女性であり、彼女のようにあってこそ本当に女性なのだという、強力に有効な美しい見本が彼女だった。いまでもその思いは充分に尾を引いている。だから彼女は、年上の女性な…

『ラピタ』一九九七年十二月号

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