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評論・エッセイ

片岡義男のぼくのお気に入り道具たち マウンテン・パーカによく似合う ブレイディのショルダーバッグ

 待ちあわせの場所であるその小さな駅に、ぼくは約束の時間よりもかなり早くに着いた。標高二〇〇〇メートルの山の、南側の山裾にある、風情ゆたかな無人駅だった。
 駅を出たぼくは、近くを歩いてみた。深まりきった秋が、その次に来る冬と完全に入れかわる直前の、秋と冬とのちょうど中間の季節だった。
 早朝の空気は、ほどよく冷えていて、心地よかった。澄んだ空気のなかに静かに満ちている芳しい香りは、ぼくの思っていたとおりだった。きれいに晴れた淡いブルーの空は、秋のはじめのころにくらべると、さらに高いところへ遠のいているよう…

『BE-PAL』一九八四年一月号

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