服と私──着る服、脱ぐ服
六歳年下の弟は野球少年だ。高校ではさらに野球を続けるため、彼は今年の春から全寮制の高校の一年生となった。弟は両親とともに暮らしていたが、寂しくなったからお前が帰って来なさい、と両親に言われ、マユミはひとり暮らしの部屋から都内の実家に戻った。記念に写真を撮りたい、とマユミは思った。彼女は大学の三年生で、写真を勉強していた。庭で弟は一日も欠かすことなくバットの素振りをしていた、という話を母親から聞いたマユミは、その庭へ出てみた。素振りのとき弟はいつもおなじ場所に立ったことが、庭に出てすぐにわかった。ここにこんなふうに立ち、向こうのあのあ…
『SWITCH』二〇一二年四月号(『フォトーグ』特別編として)
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