いつのまにか聞かなくなった言葉、見なくなった言葉。死語ではないが、そう言えばもう何年も接してないな、と誰もが思うような言葉。電車で座席にすわり、ぼんやりしているときなど、思いつくままに手帳にメモしていくと、楽しい。どっこいさ。どっこいし。やっこらさ。やっこらしょのせ。えんやこらさ。こういった言葉を聞かなくなって五十年にはなるだろう。子供の頃には聞いたのか。大人たちは使ってたような気がする。彼らが口にするのを聞いて、子供は学習した。しかし自分で使う機会はないままだ。
　重いものを持ち上げたり動かしたりするとき、数人で力をこ…

初出：『サンデー毎日』二〇一九年六月九日号（「コトバのおかしみ・コトバのかなしみ」２「どこかへ向かっていたあの頃」）
底本：『言葉の人生』左右社　二〇二一年