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評論・エッセイ

私立探偵はいかに廃業したか?

 雨に濡れた帽子をふって水をきりながら、マイク・ハマーはその部屋に入ってきた。部屋にいた人たちは誰も口をきかず、マイク・ハマーをみつめたまま、彼に威圧されて一歩うしろにさがったのだ。マイク・ハマーの運命は、このときすでにきまっていた。なぜなら、彼は、ひとりで雨に濡れながら、やってきたからだ。
 私立探偵マイク・ハマーを主人公にすえたミッキー・スピレインの第一作は、一九四七年に単行本として世に出た。太平洋戦争が終ってから二年たっていた。四八年の冬には、簡易装丁の大量生産本となり、ベストセラーになっていくのだ。
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底本:『10セントの意識革命』晶文社 二〇一五年改版(一九七三年初版)

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