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片岡義男.com 全著作電子化計画

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評論・エッセイ

否も応もなく

 小田急線新宿駅の四番線ホームで、平日の午後四時三十何分だったか、僕はロマンスカーという種類の特別急行に乗るため、列車がホームに入って来るのをひとりで待っていた。御殿場線を経由して沼津までいく、JR乗り入れの特別急行だ。何人もの人たちがプラットフォームのあちこちにいた。あちこちとは、到着する列車の、車輛ごとの乗車位置だ。その位置ごとに、何人もの人たちが、なんとなく列を作るかのように、集まっていた。
 僕がひとりで立っていた周辺にも、何人かの人たちがいた。すぐ隣にいたのは、おそらくまだ一歳になっていない年齢の、ひとりの男の赤…

初出:『図書』(連載「散歩して迷子になる」題名:否も応もなくそれが自分)岩波書店 二〇一〇年十月号
底本:『言葉を生きる』岩波書店 二〇一二年(初出を大幅に改稿・加筆)

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