今日は口数がおおい(その9)|7月発売は29冊です

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狙撃者がいる」は赤背の角川文庫の最後を飾る『狙撃者がいる』に収録されています。初版発行日は1994年7月25日、赤い背の最上部に「か7-85」という番号がついています。か、で始まる名前の7番目の作家による85冊め、という意味ですね。片岡さんの角川文庫は74年からの20年に85冊出ているわけです。単純に計算しても1年に4冊強。しかもこれは角川文庫だけの冊数ですから、あらためてすごい数だなあと思います。

狙撃者がいる」はひとりの女性が狙撃の名手となり、通り魔として見知らぬ男性たちを撃ち殺していくというアンモラルな怖いストーリーです。しかし狙撃のためにその女性が見つける時間の裂け目というものが、この小説のもっとも重要なアイディアであり、そのためにはモラルなど軽く超えてしまうのです。しっかりと現実的なストーリーの運びとそれに反するような抽象性を西本美貴子という若い女性が担っています。読んでみれば、こんな小説読んだことない、と誰もが感じるのではないかと思います。お勧めします。
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※本の表紙をクリックすると[試し読みから → 購入まで]できます

若い女性ふたりの会話で成り立っている「会話の内容はビックリです。女性なら親友とこの類の話(男性器についてのあれこれ)をすることはなきにしもあらずですが、ここまではなかなかいきません。。。「狙撃者がいる」とは違って、モラルを超えてはいないと思いますが、それだけに驚きもまた強く大きいのです。この短編は書籍『私も本当はそう思う』に収録されているものですが、この短編集そのものがビックリな一冊です。「思いがけないベッドの上で」も読んで驚いてください。片岡さんはフェミニストです。

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片岡さんの小説に出てくる姉と弟という関係は独特です。姉はいつだってしっかりとしていて、弟を導いてくれる。今月発売のなかにも「紙の上にクレヨンで」「それも姉が教えてくれた」があり、姉と弟の関係はアンモラルなところまで到達してしまいました。しかし、ここでもアンモラルが問題なのではなく、ふたりの関係の抽象の度合いを高めていくとこのようになるという、小説としての実験なのですね。だからアンモラルなストーリーといってもそこに暗さはまったくないのです。

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小説としての実験といえば、「水平線に時を読む」と「波と風のグッド・ニュース」には楽しい趣向があります。作中に「波が呼ぶんだよ」や「海をもらった人」「指輪の中の海という小説が出てくるのですが、これらは実際に片岡さんの書いた小説のタイトルです。自分の書いたフィクションをさらにフィクションに取り入れてしまう実験精神に思わず笑ってしまいました。

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忘れがたいのは「ベーゴマと美人の母親」の9歳の少年です。口数の少ない9歳ですが、精神は自立していることがはっきりとわかります。両親は離婚していて、彼は美人の母親と暮らしています。夏のある日、母親が仕事で忙しいために父親の家に行くことになり、そこのお祭りでベーゴマというものを知ります。扱いかたを父や叔父に教わり、帰ってから母親に彼が教えて、ふたりでベーゴマを回す。ベーゴマを書きたくて考えたストーリーだと片岡さんは言っていました。

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八巻美恵@編集部

 

2017年7月19日 12:00