毎週火曜日に、これまで片岡義男.comでは未公開だった小説作品を公開していきます。

（底本：『ミッキーは谷中で六時三十分』2015年、講談社）

『お隣のかたからです』は、東京で知り合った女性たちと、倉敷や広島で偶然出会う物語です。実際には、そういう偶然は案外頻繁にあったりするのですが、物語の中で書くのは難しいものです。ご都合主義とか、作り物めくとか、色々批判されたりするのですが、この物語では、そういう感じが一切ありません。それは、その出会いが物語を展開させるものではなく、主人公が東京と大分をベンツで往復する途中での出来事としてだけ書かれているからでしょう。そこが、この小説の上手いところですし、出会うこと自体がストーリーを動かすのではなく、物語そのものであるというスタイルの見事さでもあるのだろうなと、そういう偶然にあまり縁がない私は思うのでした。

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