毎週火曜日に、これまで片岡義男.comでは未公開だった小説作品を公開していきます。

（底本：『ミッキーは谷中で六時三十分』2015年、講談社）

『三人ゆかり高円寺』は、とても不思議な物語です。三人のゆかりについて、それぞれに背景なども詳細に語られながら、実際に物語に登場するのは、三人目の喫茶店で働く中野ゆかりだけなのです。そして自らの物語を演じるのもまた彼女一人だけです。では、他の二人のゆかりは話の枕なのかというと、そんなことはなく、編集者がラジオディレクターが、それぞれに語るゆかりは、どちらも存在感を持って、物語の中で立っています。そして何より浮かび上がるのは、高円寺という町の独特なムードです。これは高円寺についての物語で、その町を三人のゆかりと、中野ゆかりが出会う、育てている男によって描こうとした試みなのではないかと考えています。

こちらからお読みいただけます。