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評論・エッセイ

トンカツと生卵の小説

 一九七五年あるいは七六年。場所は銀座の文壇バーのひとつ。そのバーの名前も場所も、僕は記憶していない。そこへはそのとき一度いったきりだろう。しかも雑誌の担当編集者に誘われ、連れていかれた店だから、よけいになにも覚えていない。なぜ僕が文壇バーへいったのか。吉行淳之介さんにうちの編集長が銀座で会うことになっていて、自分もこれからそこへいかなくてはいけない、よかったらカタオカさんも誘ってこいと言われてるので、どうですか、これからちょっと、という特別な機会だったからだ。銀座とは、吉行さんが常連だった何軒ものバーのうちのひとつ、という意味だった…

底本:『白いプラスティックのフォーク──食は自分を作ったか』NHK出版 2005年

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