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オートミールの朝食

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 子供のころ、朝食にオートミールをよく食べさせられた。ぼくが子供のころには、日本のどこをさがしてもオートミールなんてなかったのだが、いまではたいていのスーパーで売っている。

 ドロドロのおかゆのように出来あがった熱いのをスプーンですくい、まだ半分は眠っている自分の唇でフーフーと吹いては食べた。なんにも味つけをしないでおくと、味があるようなないような、不思議な味覚は、大人たちはいやがったけれど、ぼくは好きだった。

 メイプルのシロップをすこしかけると、甘くなると同時にメイプルの素敵な香りがして楽しかった。砂糖はぬきにしてミルクだけかけてもよかったし、コーンフレークスをひとつかみいれて、ドロドロといっしょにすくって食べると、口のなかでの触覚的なとりあわせの妙は面白かった。

 カンづめのフルーツカクテルをかけるという手もあった。ダイスに切ったピーチやパイナップル、それにディズニー・カラーのようなピンク色に染めたチェリーのハーヴズがシロップづけになったものなどを、オートミールにすこしかけるのだ。冷蔵庫でよく冷えたフルーツカクテルと、熱いオートミールの対比と融合は、子供用の秋深くから冬いっぱいの季節の朝食としては、かなりいけた。

 このオートミールのもっと粋な食べ方はないものかと考えはじめたころから、次第にぼくはオートミールを食べなくなった。もっとも粋な食べ方は、15年くらいまえ、アメリカのペーパーバックに出てくるタフな私立探偵が教えてくれた。

 ひとり暮らしの探偵は、朝、自分でオートミールをつくる。さあ食べようと思ってテーブルにつくと、熱いドロドロの乳灰白色をしたブツブツが湯気をたてている。前夜の大格闘による神経バランスの不調もあって、見ただけで食べる気をなくした彼は、オートミールを水洗トイレに流して、朝食おわり。舌を焼く熱いブラック・コーヒーだけ飲み、事件の調査に出かけていく。この情景の描写は、朝のオートミールによく似合った。非常にアメリカ的なアクションだった。

底本:『アップル・サイダーと彼女』角川文庫 1979年


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2016年2月8日 05:30
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