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『メイン・テーマ3』

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『桔梗が咲いた』よりも前、一九八六年の一月に、『メイン・テーマ3』という小説が、おなじく書き下ろしとして角川文庫から刊行されている。このなかにオートバイに乗った人が出ているはずだ、と思って僕はページをくっていく。『メイン・テーマ』は1からスタートして12まで続く予定だった。幼稚園の先生である若い女性が、沖縄に職を得る。赴任するまでに時間のゆとりがあるので、その時間を利用して彼女はひとまず西に向けて、東京から出発する。彼女がアクションの主体であり、その彼女を補佐する役として、ひとりの青年が登場する。このふたりの、西に向けて、そして南に向けての移動ないしは旅が、『メイン・テーマ』の中心軸だ。その軸に沿って、道中でふたりが知り合うさまざまな人が登場する。そのなかのひとりに、オートバイに乗った人がいたはずだ、そしてその人は『メイン・テーマ3』には登場していたはずだ、と僕は思う。

『メイン・テーマ』よりもっと以前、僕は『幸せは白いTシャツ』という中編を書き下ろした。その主人公、仁美という女性が、同一のキャラクターとしてそのまま、『メイン・テーマ3』にも登場している。幼稚園の先生である主人公の女性と、ピックアップ・トラックで旅をともにしている平野という青年は、『メイン・テーマ2』のなかで、すでに仁美と知り合っているらしい。『メイン・テーマ3』のなかで、ふたりは早くも再会する。

 道中で知り合う人たちとのエピソードのあいだに、その季節の気象歳時記のような記述が、『メイン・テーマ』のなかにしばしば出て来る。気象歳時記のかなり直接的な体験としての旅のなかに、知り合う人々のエピソードが次々につながっていくのが、『メイン・テーマ』という小説の試みであるようだ。気象歳時記は、たとえば次のようだ。


63

 北海道では、タンポポがいっせいに咲いているはずだ。その北海道から東に進んだ海の上空に、高気圧がある。もうひとつ、太平洋にも高気圧があり、梅雨前線はそのふたつの高気圧のあいだを、東西にのびている。北緯四〇度線を、前線はまたいでいる。曇り、ところにより一時、雨。全国的に、そうだ。
 東日本の太平洋側は、霧あるいは下層雲によって、広くおおわれた。日本海側は、きれいに晴れていた。東日本の太平洋側の天気は、北東から来る冷たく湿った気流の影響によるものだ。
 北東気流の影響を受けている場所以外は、よく晴れている。梅雨入りをまえにして、梅雨前線にともなう雲域の変化が続いていく。
 東の海上から、勢力の強い高気圧が、列島にむけて広がってくる。この高気圧におおわれて、列島はどこもだいたい晴れる。明日は、日本海を低気圧が北東に進んでいく。そしてそのあとから、別の低気圧が、九州に接近してくる。
 東の高気圧の中心は、三陸沖だ。黄海付近に低気圧があらわれている。明日は西日本から天気は下り坂だ。
 オホーツク海から日本海をへて中国大陸まで、大きな雲の帯が南下してきている。この雲のなかには、大雨を降らせる積乱雲があり、西日本ではこの雲のためにすでに強い雨が降りはじめている。
 この雲の帯が列島の上まで降りてきて、それが今年の梅雨前線となる。たいていは、梅雨前線は南の海から列島にむけて北上してくるのだが、今年は北から下がってきた。日本海から南下してきた前線は、太平洋岸で停滞する。北日本ではぜんたい的に天気は回復していく。九州北部、そして中国地方が、梅雨入りした。激しく雨が降っている。
 三陸沖の高気圧の力が、まだ強い。だから、太平洋岸に梅雨前線がいすわる梅雨型の気圧配置には、ならずにいる。関東地方に低気圧が接近しにくい。東海地方から西の各地に強い雨を降らせた低気圧は、この高気圧にはばまれ、紀伊半島沖で停滞し、やがて衰弱した。
 四国、近畿地方、そして東北まで、梅雨のなかに入った。北海道を別にして、全国が雨のなかだ。
 梅雨前線が南へ降りていく。そして、高気圧が張り出してくる。だから、全国的に晴れる。旧暦の五月がさつきだから、六月の梅雨の晴れ間は、さつき晴れなのだ。海に霧が発生する季節だ。北海道から関東にかけての太平洋側の海域では、ぜんたいに濃い霧が出ている。
 梅雨前線は、南岸沖にある。この影響で、東日本は雨模様だ。北日本は、東の海上に中心を持つ高気圧におおわれているから、よい天気が続く。二、三日、このような気圧配置が続きそうだ。関東で、栗の花が咲く。いつもより遅い。
 昨日、東日本では、梅雨の雨はしとしとと降った。西日本、特に九州南部では、大雨警報が出るほどの、局地的な激しい雨が降った。このように、西と東とで雨の降りかたが異なるのは、梅雨に特有の現象だ。
 高気圧におおわれた北日本では、天気がよい。しかし、関東から西の各地では、天気は変わりやすい。梅雨前線上の東支那海方面には、新たな低気圧があらわれそうだ。これによって、西日本では、再び雨が降りはじめるかもしれない。
 太平洋からのびてくる高気圧によって、北国は晴れている。梅雨前線は三陸沖から南の海へのびている。東支那海の低気圧は、東へ進んでいる。
 東の海上に、力の強い高気圧がある。その力は、東日本一帯までおよんでいる。九州の西の海上にある低気圧は、この高気圧に進路をはばまれ、移動する速度が遅い。
 高気圧から吹き出る南東風と低気圧に吹きこんでくる南西の風が合流する付近に強い対流雲がある。この対流雲は、集中豪雨を起こす。
 太平洋の高気圧にはばまれていた低気圧は、ようやく東へ動きはじめた。雨は北日本へ移っていく。前線は太平洋岸に残っている。全国的に曇りだ。雨も降るだろう。沖縄では、梅雨が明けた。
 梅雨前線は、日本付近に停滞している。大気の状態は不安定だ。雨が降りやすい。雷をともなうこともあるだろう。
 奄美地方も、梅雨が明けた。東京では、昨日が、今年はじめての真夏日だった。しかし、低気圧が東の海上に進んだあと、梅雨前線は日本の南岸に停滞しそうだ。南の海には、台風2号が発生している。オホーツク海方面には、寒気が南下してきている。ほぼひと月ぶりのものだ。
 梅雨前線が南岸沖に停滞している。東日本一帯は、梅雨空だ。北日本は大陸の高気圧におおわれ、天気は回復していく。
 北日本ぜんたいは、日本海に中心を持つ高気圧におおわれ、よい天気が続く。関西から西は、雨だ。これから数日は、このような気圧配置が続くだろう。
 南岸に停滞している梅雨前線は、梅雨らしい天候をつくり出している。この前線はさらに活発となり、関東の梅雨は本格的になっていく。北海道は、三陸沖の高気圧の影響で、晴れている。
 亜熱帯にある太平洋高気圧が、勢力を強くしつつある。そのため、梅雨前線が本州に接近していく。南からの湿った空気がこの前線に流れこんでいて、積乱雲が発生しやすい。伊豆諸島では、大雨注意報が出された。
 台風は、南支那海にある。その影響のおよぶ範囲は、広い。南西諸島のさらに南には、巨大な積乱雲の集団があり、それは北上を続けている。
 梅雨前線は、列島の上にかかってきた。本州はどこも雨だ。ジェット気流のずっと下、上空二〇〇〇メートル付近にも、西風の強風帯がある。梅雨期のほとんどの豪雨は、この強風帯の直下ないしは北へ三〇〇キロ以内の場所で発生する。
 梅雨前線が南岸沿いに停滞し、この上を短い周期で低気圧が通過していくという状態が、これから一週間は続くだろう。
 東支那海方面からは、温かく湿った空気が流れこんでくる。日本海には、寒気が南下してくる。ともに、梅雨前線を活発にさせる。だから、昨夜から今朝にかけて、日本の南部各地で、豪雨が降った。積乱雲をともなった厚い雨の雲が、次々に東へ進んだり、あるいは、停滞したりしたのだ。
 今日は、昔から、雨のよく降る日として知られている。南岸沖には、前線がいぜんとして停滞している。空は梅雨空だ。
 梅雨前線上の東支那海に、低気圧があらわれた。前線が再び活発になっていく。だから、変わりやすい天気が、さらに何日か、続くことになる。関東ではざくろの花が咲いている。
 梅雨前線は太平洋南岸に停滞している。その上を、低気圧は北東に抜けていった。北海道には高気圧が張り出し、天気は回復していく。しかし、霧は多い。
 冷たい高気圧が、オホーツク海方面にあらわれる。北日本から東日本まで、それによっておおわれる。関東から北の太平洋側は、天気が変わりやすい。低温の続いていた釧路では、六日まえにカッコウが今年はじめて鳴いた。
 およそ以上のようにして、六月は進行していく。

(初出・底本:片岡義男エッセイ・コレクション『彼の後輪が滑った』太田出版 一九九六年)

今日の1冊|メイン・テーマ3

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2017年5月18日 01:00