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我々は連合してここに存続する、と一羽の鳥が言う

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 国のエンブレムとして正式に議会が制定したものがアメリカにはあり、それはザ・グレイト・シールと呼ばれている。シールと言っても、台紙からはがしてぺたんと見るあのシールではなく、印形とでも言えばいいのだろうか、オフィシャルな文書や手紙にプレスしてレリーフのように浮き出させる、あのシールのことだ。

 このナショナル・エンブレムのデザインのなかで中心的な存在となっているのは、一羽のアメリカン・イーグルだ。一羽の、と言うとなんだか七面鳥みたいでおかしいが、とにかく一羽のアメリカン・イーグルが、国家のシールのなかに、初代大統領ジョージ・ワシントン以来、翼を広げ、かっと見開いた目つきも鋭く右をむき、がんばっている。くちばしにくわえているリボンにうたってある文句は、「我々は連合してここに存続する」という意味のラテン語だ。

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 一七七六年七月四日、新国家アメリカの独立宣言に署名がなされた数時間後に、議会の招集したひとつの委員会が開かれた。国として正式のシールを制定するための委員会だった。この委員会以来、シールに関するさまざまなアイディアが出て、ああでもない、こうでもないといっこうにらちがあかないまま、数年があっというまに経過していった。

 一七八二年の六月二十日になってやっとデザインは決定し、一七八七年に議会によってそのシールは正式に採択された。そして、一七八九年のジョージ・ワシントンの就任のときから、公式なものとして発効することになった。

 アメリカン・イーグルの頭上には十三個の星が輝いている。イーグルの右足はオリーヴの枝をつかみ、左足は十三本の矢をつかんでいる。そして、そのイーグルはシールドのむこう側で両翼を大きく広げている。

 正式な文書には赤いワックスを溶かして垂らし、丸く形を整え、その上に封緘用の糊にシールをインプリントしたものを乗せ、くっつけていた。

 この方式でずっと使用されていたザ・グレイト・シールは、やがてデザインが変更された。ネガティヴとポジティヴの型をつくり、そのあいだに紙をはさみ、圧力をかけて紙じたいにシールをレリーフのようにインプリントする方式が考案されたので、国家のシールもその方式を採用することになったのだ。

スクリーンショット 2017-02-09 15.20.16Wikipedia|米国版|Great Seal of the United Statesより

 シールをデザインしなおす仕事は、一介の彫金師にすべてまかされた。出来あがってきた金型のデザインには、イーグルが足でつかんでいる矢の数が六本になっているなど、重大なまちがいがあったのだが、そのまま採択され、一九〇二年までそのシールは使用された。このときのデザインの変更は、議会をとおして正式に決定されたことではないので、この二番目のシールは法律的には無効ないしは違法なのだとする説がある。

 一八八四年、当時の国務長官の要請により、千ドルの予算のもとに、三番目のシールがあらたにデザインされることになった。最終的にシールをデザインしたのは、ティファニーのチーフ・デザイナーだったジェームズ・ホートン・ホワイトハウスだ。一八八五年に、デザインは完成した。それをもとに、インプリント用の金型が出来たのは、一九〇二年だった。

 ザ・グレイト・シールが正式に採択される以前から、多少ともオフィシャルなニュアンスを持ったさまざまなところに、アメリカン・イーグルはデザインの中心として、さかんに登場していた。正式に国のシールとなってからは、国や政府と関係した多くの機関や団体のシールないしはエンブレムの主役として、アメリカン・イーグルは数えきれないほどにたくさん出現することとなった。アメリカで注意してよく見ていると、なんらかのかたちで政府や国家、あるいは地方自治団体とつながっている機関のほとんどが、その丸いシールのなかにイーグルの翼を広げさせていることに気づくだろう。

 オフィシャルなところだけではなく、民間のそれこそいたるところに、イーグルはデザインのモチーフとして、盛んに使用された。木、金属、ガラスなどのレリーフや彫刻、グラフィックス、刺繍などをとおして、イーグルはたいへんにポピュラーになり、全国に広まった。ひとつのデザイン・モチーフが、これほどに多岐にわたって、しかもいろんなところに登場した例は、あとにもさきにも、このアメリカン・イーグルだけではないだろうか。

 アメリカン・イーグルは、ボールド(秀)・イーグルと呼ばれることもある。頭ぜんたいから首にかけて、白くなっているから、遠目には禿げているように見えるからだ。しかし、アメリカン・イーグルは禿げてはいない。

 力とか権威、あるいは生命などの象徴としてイーグルをデザインのなかに使ったのは、アメリカが最初ではない。歴史をたどっていくと、紀元前三〇〇〇年というような遥かな世界へ、たちまちもどってしまう。その頃すでに、イーグルは象徴としてデザイン的に使用されていた。

 空高く舞う、堂々としたイーグルは、太陽の従者と考えられていた。永遠不滅なるものの象徴だった。古代ギリシャの世界に登場するイーグルは、足に稲妻をつかんでいた。古代ローマではイーグルはシーザーのエンブレムであり、数々の戦いを勝利に導いたローマの軍隊にとっても、象徴として使われていた。

 これから我々が国をひとつ作りますという宣言のもとに、まったくあらたに誕生したアメリカは、国家のさまざまな組織のお手本を、古代ローマに求めた。たいそう古くまでさかのぼることの出来る、強力な権威に満ちたイーグルを国家の象徴として採択した必然のようなものは、このことと関係があるかもしれない。

 国家のシールから日常生活の片隅にいたるまで、デザイン・モチーフとしてあるいは飾りとして、頻繁に登場するこのアメリカン・イーグルについて、一冊にまとまった本はないだろうかと思って、僕は捜してみた。捜すもなにもなく、すぐにみつかった。ドーヴァー・パブリケーションズが刊行しているアートとデザインのシリーズのなかに、『アートとデザインにおけるアメリカン・イーグル』という一冊があった。コインのレリーフ、織物、建物の飾り、彫刻、木彫り、金属による造形、グラフィックス、絵画、写真など、アメリカン・イーグルがじつに三百二十一例も、この一冊のなかにおさめてある。

 ひとつひとつ見ていくと、イーグルはそもそもたいへんにいい形をしているという事実が、あらためてよくわかる。こういう形をしたものは、やはり永遠とか最高の権威とかの象徴になりやすいのだろう。三次元の彫刻にせよ、二次元のグラフィックスにせよ、イーグルはその形や象徴としての絶対的と言っていいほどに権威ある雰囲気など、造形するにあたって使いやすいし、デザイン化するときにも線や表情を作りやすいのだろう。デザイン的に扱いやすく、しかも出来あがりが安っぽくならないという、不思議な生活の形を、アメリカン・イーグルは持っているようだ。

『本についての、僕の本』新潮社 1988年所収
底本:片岡義男エッセイ・コレクション『自分を語るアメリカ』太田出版 1995年

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1988年 1995年 『本についての、僕の本』 アメリカ エッセイ・コレクション 片岡義男エッセイ・コレクション『自分を語るアメリカ』
2017年2月9日 05:30
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