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特集 片岡義男のエッセイでアメリカの民主主義を読み解く

特集 片岡義男のエッセイでアメリカの民主主義を読み解く

2025年1月24日 00:00

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 2025年1月20日、第47代アメリカ合衆国大統領にドナルド・トランプ氏が再就任しました。アメリカ第一主義を掲げるその足元では、異なる文化や意見の衝突による社会の分断が鮮明になっており、この分断は今後ますます激しくなるとも言われています。そしてこれまで“民主主義のリーダー”を自認してきたアメリカの民主主義の行く末を懸念する声も国内外から聞かれます。


 片岡義男はこれまでいくつかの評論やエッセイの中でアメリカの民主主義について書いてきていますが、その中で、民主主義は単に政治や社会の体制ではなく、文化や言語、消費社会を通じた「生き方」であり、その根底にはどこまでも客観的で実証的という特性を持つ英語という言葉があることなどを指摘しています。これらの作品を2025年の今、読むことで、アメリカだけでなく我々が今直面している分断や価値観の変化、そして自身の文化的アイデンティティについて深く考えるきっかけを提供してくれるはずです。


 この特集では『日本語の外へ』(1997年)を中心に、アメリカに根付く民主主義とその理念について深く理解するためのヒントとなりうる作品をご紹介します。



1)「結束してこそ我らは建つ。一九四二」

アメリカはその建国時から「理想の国を自分たちで作る」ことを理念として掲げてきました。自由と民主は資本主義と不可分であり、その推進力の源泉は「利潤を求めて突進を続ける」ことにあります。そしてその背景には「科学的な合理性」という武器と「結束」が常にありました。それは戦争という営みで大いに発揮されることになります。

(『Free&Easy』イースト・コミュニケーションズ 2002年2月号掲載)


2)「ウエイ・オヴ・ライフを守る」

 アメリカ軍人になると支給される基本マニュアルの最初には、軍人としての行動規範などが書かれており、「自分の国および生活様式を守る軍隊に自分は身を置き、そのために自分は生命を捧げる用意を持つ」という記載があります。ここで述べられている「国」こそがウエイ・オヴ・ライフであり、それは政治や文化、経済から日常までのすべてを指します。そしてそれを保証するのがフリーダムですが、いったん国外に出すとそのいびつさや矛盾が露呈します。それを如実に示したのが、1990年の湾岸戦争でした。

(『日本語の外へ』筑摩書房 1997年所収)


3)「個人主義にもとづく自由と民主の視点」

 アメリカでは建国以来、あらゆることが民主主義を機能させるための壮大な実験であり、今もその実験は続いています。独立独歩の強靭な自助精神、独創力、周到な科学性、攻撃的な戦略、駄目とわかればやり直す自己改革能力など、すべては歴史を進行させていくにあたりなくてはならないものでした。だからこそ民主主義はアメリカで誕生し、発展し、伝統的な価値となり得ました。その裏には常に個人主義にもとづく自由と民主があり、さらにその裏には、戦争という仕事(Job)が強固な支柱としてありました。

(『日本語の外へ』筑摩書房 1997年所収)


4)「もっとも良く送られた人生」

 アメリカでは日々有形無形さまざまな商品やサービスが生まれ、世界に向けて発信されていますが、その背景には世界中から優秀な人材を集め、資本を効果的に活用するための基盤が存在します。個人の創造性を尊重するとともに、実現を支援するための社会的システムも整え、民主主義を世界に広めていこうとするのがアメリカのシステムですが、その力は一方では二極化を推し進める方向にも働きます。このエッセイではアメリカというシステムが持つ特性と影響力について語ります。

(『日本語の外へ』筑摩書房 1997年所収)


5)「オン・ザ・ロードとは」

 アメリカの小説や映画には、主人公がそれまでの生活をキッパリと捨てて旅に出る、という場面が多く登場します。これは彼方にある理想に向かって自らを向かわせるという、アメリカの理念が個人にまで浸透していることの表れのひとつと言ってよいでしょう。此処とは違う、どこかへ……その顕著な事例がかつての西部開拓ですが、この理念は自動車の誕生と普及にも繋がっています。

(『アール・グレイから始まる日』角川文庫 1991年所収)


6)「民主主義とエンタテインメントの、大人的な関係と展開」

 現在ではアメリカン・コミックスのキャラクターは映画やアニメの主人公にもなり、世界的な人気となっています。そしてこれらを玩具化した製品も無数に存在します。こうしたキャラクター玩具の歴史を遡っていくと、19世紀に新聞の日曜版に連載され大きな人気を博したコミックスがその原点であるようです。なぜ日曜日の新聞のコミックスは、ここまでアメリカの人たちに愛され、キャラクター玩具にまで発展したのか……ここにもアメリカの民主主義が深く関わっています。

(『本についての、僕の本』新潮社 1988年所収)


7)「ちょっと外出してピストルを買って来る」

 2024年、アメリカの学校では合計205件の銃乱射事件があり、17名が死亡、2024名が負傷しました。2022年には銃によって亡くなった子供の数は交通事故死を抜いて1位になっています。それほどまでに危険な銃ですが、規制がなかなか進まないのはなぜなのか……。アメリカにおける銃規制と、自由・民主との関係について考察します。
(本文中のデータはすべて執筆当時のものです)

(『日本語の外へ』筑摩書房 1997年所収)


8)「煙草をお喫いになりますか」

 今では喫煙による健康被害は世界的な共通認識となっており、公共の場では禁煙が常識となっていますが、アメリカでタバコのパッケージに初めて警告が印刷されたのは1969年のことでした。1995年には日本の煙草会社が「煙草の製造と販売は殺人および殺人未遂である」として、アメリカ市民から告発状を提出されたこともありました。かつては大衆に愛された嗜好品が、自由と民主主義の中で否定されるべきものへと変わっていくその歴史をたどります。

(『日本語の外へ』筑摩書房 1997年所収)


9)「IとYOUの世界」

 アメリカの民主主義や自由主義を考える時、切っても切り離せないのが、英語という言語の持つ基本的な性質や機能です。一般的には論理的な言語と言われる英語ですが、ここでは「I」と「YOU」という最も基本的な単語から、英語という言葉が規定する社会とその中での言葉の役割について考察します。

(『日本語の外へ』筑摩書房 1997年所収)


10)「グレン・ミラー楽団とともに」

 1994年6月6日、イギリスで行われた「Dデイ」(1944年のノルマンディー上陸作戦開始を記念した日)50周年の式典に、アメリカを代表して出席したのは、学生時代にヴェトナム戦争に対して反戦運動を行い徴兵回避をしたビル・クリントン大統領(当時)でした。片岡義男は式典を伝えるニュースの中にアメリカの中に今も残る「ある対立」を見出します。

(『日本語の外へ』筑摩書房 1997年所収)