ボブ・ディランという人は、デビューするまで、そしてデビューしてからも、相当の野心家だったと思う。「野心家」という言葉が不穏当ならば、「人並外れた向上心の持ち主」と言えばいいのだろうか。そんな彼の成功は、もちろん天賦の才がいちばん大きな理由だが、別のごく小さな側面から見ると、周囲のいろいろな人を利用して、ときには嘘をつき、たまには踏み台にして、ごくまれに裏切ることによって階段を上ったからだ、と表現したら言い過ぎだろうか。おそらく言い過ぎだろう。そして、それらの事の良し悪しを議論するつもりも僕にはない。成り行きだったのかもしれない。ある…